白夜行BBSのひがしのり~さん語録集。

白夜行のTBS公式サイトBBSで的確な考察を書いているひがしのり~さんの書き込みを纏めてみました。


最初の書き込みは2月10日。

ひがしのり~

雪穂を取り巻く人物は大きく2つに分けられます。

雪穂を追及する者と、雪穂を愛する者。

この2つのどちらにも当てはまらない、あるいは、

どちらにも当てはまる人物がひとりだけいます。

篠塚一成です。

篠塚一成は雪穂の魔性に気づき、今江に調査を依頼しながらも

雪穂に激しく心を揺さぶられてしまいます。

それがこのシーン。

 「一人ぼっちなのは、この子たちだけじゃない。

  あたしも、もう誰もいなくなってしまった…」

  (略)

  突然自分でも説明のしようのない感情が湧き上がってきた。

  まるで心の奥底に封印されていたものが

  解き放たれたようだった。

  このような感情を自分が持っていたことさえ、

  彼は今初めて知った。それは衝動に変わりつつあった。

  彼の目は雪穂の白いうなじに注がれていた。

「雪穂を見守っていた育ての母」が亡くなり、

雪穂が一人になったことを嘆き悲しむとき、

篠塚一成は

  あれほど警戒すべき相手だと自分にいいきかせてきたというのに

  あの瞬間は心の鎧を完全に脱ぎ捨てて

しまいます。

彼は、雪穂に対して歪んだ偶像を作り上げてしまっただけであり、

本質は「見守ってくれた人の死」に涙し、「一人ぼっち」に震える

かよわくも美しい女性なのではないかと逡巡します。

この一連の場面、そして篠塚一成の心の動きは

何かに似ていると思われませんか。

雪穂を取り巻く人物のなかで

「雪穂を追及しながらも雪穂を愛してしまう人物」が、実は、

篠塚一成のほかにもう一人だけいます。

それは、読者です。

物語を読み進めながら、雪穂の悪行に憤りを感じながらも

どこかで彼女の「善」を信じ、魔性に惹きつけられてしまう。

篠塚一成は、まさに、読者を投影した姿なのだと言えます。

そして、「見守ってくれた人の死」によって

雪穂が「一人ぼっち」になってしまうという場面設定は

ラストシーンにぴったりと重なります。

死んだ亮司を一度も振り返らず、エスカレータを上っていく雪穂は

そのあと、涙を流し、肩を震わせたでしょうか。

僕も初めは

  あれほど警戒すべき相手だと自分にいいきかせてきたというのに

  あの瞬間は心の鎧を完全に脱ぎ捨てて

雪穂の亮司への想いは純愛だったと信じそうになってしまいました。

彼女の魔力に負けそうになってしまいました。

ラストを何度も何度も読み返してやっと、

篠塚一成と同じように、自分の心のなかの警告灯が

「黄色から赤色に変わった」ことに気づき、

本のなかの雪穂に「おやすみなさい」と言ったのでした。

35~49歳 コピーライター

2006.2.10. Fri. 07:24:50 PM

この時点では他の閲覧者からの反応がなし。
しばらく経過した3月3日に2回目の書き込み。

ひがしのり~

>真奈美さん

「雪穂は亮司を警察に売った」と書いた者です。

笹垣と一成が篠塚康晴邸に訪問したとき、雪穂と笹垣が対面しますよね。

笹垣と一成は康晴に話があるのであって、ストーリーの進行上は

雪穂と笹垣が対面しなければならない理由はありません。

けれど対面させたのは「雪穂が笹垣を記憶している」ことを

匂わせておく必要性があったからだと考えられます。

何のために?

結末の近くで、亮司と笹垣が対面するときの伏線のために、です。

亮司は「突然正面に人間が現れたことに驚いて」います。

笹垣は「こいつもわしが誰か思い出しよった」と判断します。

もし亮司が、笹垣の追及が迫っていることを

あらかじめ知っていたのなら

驚きもしないし、思い出すという表現もおかしい。

ここから、亮司は覚悟を決めたうえで大阪店に来たのではない

ということが推察できます。

笹垣が迫っていることを知っているはずの雪穂に何も聞かされず

亮司は「不意を突かれた」のだということを

作者はきちんと伏線を張ったうえで表現しているわけです。

大阪店の開店前夜、雪穂は店長の夏美に

「99パーセントまでこぎつけた」と話します。

残り1パーセントの不足とは何か?を答えない代わりに、

雪穂は初めて他人に「亮司という存在がいたこと」を

ほのめかす発言をします。

「太陽に代わるものがあった」という内容をすべて「過去形」で。

そして「失う恐怖もないの」という言葉だけを現在形で。

雪穂にとって亮司はもう過去であり、失うことを予期している。

「残された1パーセント」=「明日から亮司がいなくなること」だと

僕には読めました。

雪穂にとって大阪に店を出して成功させることが

人生の目標(=社会への復讐?)でした。

店を出すまでに最も必要「だった」のは亮司です。

けれど、成功させるのに最も邪魔なのもまた、亮司です。

東野圭吾さんはミステリー作家ですよね。

ミステリー作家のいちばんの仕事は「読者を騙すこと」。

そして、白夜行という「ミステリー小説」にとっての「犯人」、

つまり「読者に推理させる謎」は、

「雪穂が亮司を愛しているかどうか」ではないでしょうか。

上に書いたのはもちろん僕の推理に過ぎません。

僕は「愛していない」と推理した。でも

「愛している」と推理した方のほうが(ドラマの脚本家も含めて?)

ずっと多いようです。

どっちが騙されているのかは、作者のみが知るところでしょう。

僕は「幻夜」を読んでいないので続編かどうかは分かりません。

でも「白夜行」の「謎」の答えを明らかにしなかった作者が

その答えの選択肢の一つを提示した、と考えていいと思います。

(あくまでも匂わせる、にとどめて)

作家としては、どこかに着地点を設けておきたいのではないかな

と、僕なんぞは思います。

もしかしたら作者は、「雪穂が亮司を愛していた」ことを暗示する

「もう一つの幻夜」を計画しているかも知れません(笑)。

35~49歳 コピーライター

2006.3.3. Fri. 11:22:54 AM

この書き込みに同意する閲覧者多数。んで僕も同意。

ひがしのり~

>海月さん(すみません、長くなりますが返信です)

それまでの亮司の行為を考えると、

雪穂のために命を賭けてきたのは明らかですよね。

亮司が警察に捕まるときは死ぬとき。

もし死なずに(死ねずに)逮捕されたとしても口を割らない(=死んだと同じ)。

亮司は雪穂にそう話していただろうし、話していなくても

雪穂には確信があったはずです。彼は私を絶対に裏切らないと。

亮司と雪穂の間で「大阪店」に対する思いが違っていた、と僕は考えます。

当初、二人にとって「R&Y」を大阪に出店することが

人生の目標(=社会への復讐)だった。

亮司はそれでよかった、充分だった。

けれど雪穂はいつしか出店では気が済まず、大阪店を成功させ、

さらに「R&Y」を(自分自身を)繁栄させることが目標になった。

亮司は出店にこぎつけたことで人生の目標を達成し、悪事から足を洗う決意をした。

出店ごときでは満足できない雪穂にとって、

自分のために悪事を働かない亮司は邪魔なだけ。

笹垣の追及が迫っていることを隠して亮司に警戒心を起こさせず、

大阪店出店の日に(危険きわまりない)手伝いをさせる。

そうして、亮司が自分の人生から消えるよう画策したのではないでしょうか。

そう考える理由は大きく2つあります。

1つ目は、二人の野心の違いがかいま見えること。

二人ともに「白夜の人生だったこと」を仲間に語るシーンがありますが、

昼間を歩きたいと言ったのは亮司だけ。

本心では、亮司はずっとまともな生活を欲していたと考えられます。

いっぽう雪穂は大阪店オープンの前夜、「いつも夜」だったと夏美に明かしたあと、

「大阪の夜は、本当はこれからが本番なのよね」とつぶやきます。

(大阪人の僕には違和感のあるセリフです、東京のほうがよっぽど夜は長いので)

そして「勝負はこれからやで」と。

全編、大阪弁を使わなかった雪穂が見せた、最初で最後の大阪弁。

ずっと本性を隠してきた雪穂が見せた、はじめての本音ではないでしょうか。

亮司が消える(太陽の代わりがなくなる)あとの「夜」こそが、

自分の人生の勝負であると。

もう一つの理由は、ちょっと極端な推理ですが、

雪穂が亮司に替わる「新たな奴隷」を手に入れたと考えられることです。

亮司は大阪で典子に「何もかも終わった」と言いました。

大阪店の船出に支障となっていた寝たきりの唐沢礼子を「安楽死」させる。それが

亮司にとっての「最後の悪事」であることを彼自身が語っているわけです。

しかし美佳が襲われたのは、そのあとのことです。

それまでの2人(藤村都子・川島江利子)が未遂だったのに

美佳はほんとうに強姦された。

雪穂が病院に手配し、検査を受けさせた描写から

強姦犯の精液が美佳の体内にあったと想像できます。

亮司は射精ができないのに。

これらのことから、美佳を襲った犯人は亮司ではない、と推察できます。

であるならば、雪穂が「新たな奴隷」を手に入れたと考えたほうが自然です。

強姦犯は「カッコウ運送」と名乗って、美佳に玄関をあけさせます。

なぜ数ある鳥の中から作者は「カッコウ」を選んだのでしょうか。

カッコウとは托卵する(別の鳥の巣に卵を産み付け、子育てさせる)ずる賢い鳥です。

まさしく「雪穂の生い立ちの象徴」です。

西本雪穂は、自分自身を唐沢礼子に「托卵」した「カッコウ」でした。

雪穂のそうした策略に疑いを持ったことがあって、

なおかつ雪穂に愛を抱いている(=言いなりになる可能性の高い)人物。

それが、美佳を強姦した犯人であり、

亮司なきあとの新たな奴隷だと、作者は表現したかったのではないでしょうか。

ぴったりの人物が一人だけいます。

唐沢礼子がクモ膜下出血で倒れているのを発見したのは

「茶道のお弟子さん」です。

お葬式にも茶道の関係者が弔問に訪れています。

茶道からつながる男性なら、お葬式で雪穂と接触する確率は高い。

雪穂の高校時代の家庭教師、中道正晴。

彼は、礼子に茶道を習っていたお弟子さんの息子です。

お葬式で雪穂と再会した彼が、(篠塚一成のように)誘惑されたなら・・・

飛躍しすぎた推理かもしれませんが。

いずれにしても、雪穂が愛していたのは亮司ではない、

篠塚一成だと僕は思います。

幼なじみではなく、自分の手から離れようとする男性を愛している。

雪穂の愛読書は「風と共に去りぬ」だったから。

35~49歳 コピーライター

2006.3.9. Thu. 03:47:23 PM

ここらへんから閲覧者がひがしのり~さんに質問するようになる。

ひがしのり~

ご返事いただいた皆様へ。

>千夜子さん

>東野さんは「書いてないところも想像してくれ」って 感じなのかな。

いろんなカタチでミステリーを書いている作者の一つの実験でもある気がします。

恋愛小説として読んでもまったく破綻していない。

でも僕はあくまでミステリーとして読みたい。そのほうが作者を尊敬できるから。

>ぐっぐぐぐさん

都子と江利子は未遂&写真でいいけど、美佳は実行じゃないとダメ

の理論、おみごとです!そこまで考えが及びませんでした。

あと、亮司が女性の中に射精できないことは、雪穂は知っていたと思います。

花岡夕子の死体に入れた亮司の精液は雪穂が手で出したものだと

推測させる記述があとから出てきますから。

●高宮との結婚生活で、雪穂は手や口ではやらないことが明かされている

●亮司が典子に言う「手が小さい」のセリフ

これらから、雪穂が手を使うのは亮司にだけ、亮司が出せるのは雪穂の手だけ

だと考えられるので。お互いにそのことは分かり合っていたと思います。

>直さん

>「騙すなら、死ぬまで騙して欲しい。」

同感です。死ぬまで騙してくれるなら、生きている間は幸せだけ味わえる。

雪穂のような究極の美女&悪女を東野圭吾さんが理想の女性だというのは

そういうことなのかなと思います。男として溺れて本望だ、みたいな。

>真奈美さん

>忘れたくても思い出してしまう一番いやな相手

なるほど。そういう見方は僕にはできませんでした。甘ちゃんですね(笑)。

雪穂は過去を消したい。それには過去を知る人間を消すのが近道ですよね。

>間違っても惚れた男に自分の嫌いな女襲えとは絶対に言わない

女性ならではの視点かも!今後の参考にします(って、使い道ないけど。笑)

>かなさん

あかん、褒めすぎや。

僕みたいに考えた人はたくさんいると思いますよ。

僕みたいに喜んで書き込まないだけで。

>ゆゆさん

僕も、中道の行く末が書かれていないことがすごく気になっていました。

美佳を襲った犯人が中道ではないかと考えれば考えるほど、

そういうふうに読めてしまって困っています(笑)。

中道と篠塚一成は好対照な人物として描かれています。

中道は雪穂に一目惚れをし、雪穂への疑惑を持ちながらも結局は打ち消します。

一成は一目で雪穂に疑惑を抱き、のちに雪穂に惹かれかけながら踏みとどまります。

中道と一成はコインの裏と表です。

一成は、恋人の江利子が襲われたという意味で「強姦事件の犠牲者」。

ならばその裏は・・・

礼子のお葬式で一成が雪穂に誘惑されるシーンが、

過剰なほど詳細に描写されている。これは、

「お葬式で誘惑される男がいたこと」を強調するためではないか。

雪穂を危険人物とみなしていた一成さえ崩れ落ちそうになるのだから

雪穂に恋心をもっていた男ならいともたやすく手の中に落ちるだろうなと。

もうひとつ。

桐原亮司の「桐」は花札で12月の札。つまり「冬」を意味します。

美佳を襲った犯人が名乗った「カッコウ運送」の「カッコウ」は

昔、ホトトギスと同一視されていました。(どちらも托卵する鳥です)

「ホトトギス」は花札で4月の札。つまり「春」を意味します。

雪穂の奴隷となる一人目は「桐=冬」。二人目は「カッコウ=ホトトギス=春」。

「冬」が死んだあと、やってくるのは「春」。

中道の名前は、マサハルです。

推理の答えが正解かどうかは作者に直接会って聞くしかない。

いまいちばん会いたい人は東野圭吾さんですね、僕も。

35~49歳 コピーライター

2006.3.14. Tue. 11:06:28 AM

連投。

ひがしのり~

>如月ココ(in今里)さん

>雪穂はなぜ結婚したんですか?康晴と。。。

あくまで僕の考えですが、いくつか思うところがあります。

1つ目。

雪穂の人生はまだこれからなので、安定した「金づる」が必要です。

もう亮司の手助けは借りられないのだから、悪事で大金を手に入れることはできない。

(その分野においては、中道では亮司の代わりは務まらない)

篠塚家に寄生するのがいちばん確実で手っ取り早い方法でしょう。

(逆に、篠塚家を手に入れることができると分かったから亮司を捨てたのかも)

結婚するだけではありません。

美佳を強姦させる(美佳の魂を奪う)ことで「篠塚家」を完全に掌握しました。

別の鳥の巣に托卵されて孵化したカッコウのヒナは、

元から巣にあった卵を地面に落として抹殺します(寄生先の子どもの命を奪う)。

そうして雪穂は「唐沢家」に続いて「篠塚家」に「托卵」したわけです。

強姦犯が「カッコウ」を名乗ったのはそういう意味も含めてのことだと思われます。

2つ目。

作者は「風と共に去りぬ」をモチーフにしています。

主人公のスカーレットは初め、幼なじみのアシュレーと結婚したかった。けれど

アシュレーは情熱的なスカーレットではなく、物静かな女性メラニーを相手に選びます。

その腹いせにスカーレットはアシュレーのいとこ・チャールズと結婚するのです。

「アシュレー=篠塚一成」だとすると「メラニー=川島江利子」であり、

「チャールズ=篠塚康晴」ということになります。

作者は「愛している人のいとこと結婚する」というストーリー進行によって

「風と共に去りぬ」と「白夜行」を重ね合わせたのでしょう。

3つ目。

2つ目と部分的に重なりますが、雪穂はどうしても篠塚一成が欲しかった。

一成にいちばん近いところにいれば、

またチャンスが巡ってくるかも知れませんよね。

作者は、雪穂と康晴(=一成のいとこ)を結婚させることで、

雪穂ほどの悪女であっても「愛している人のそばにいたい」女心は変わらない

ということを表現したのではないでしょうか。

雪穂の結婚相手は二人とも、一成にとても近しい人物です。

そんな雪穂の執着ぶりを描くことで、雪穂の中にくすぶり続ける

「一成を手に入れられない心の痛み」が浮かび上がります。

育ての母も親友も結婚相手も、悪のパートナーも懐柔できた雪穂が、

唯一かなわなかった「愛している人から愛されること」。

その、人として「究極の幸せ」を得られないことこそが、

雪穂に下された「究極の罰」なのだと、

作者は描きたかったのではないでしょうか。

35~49歳 コピーライター

2006.3.14. Tue. 03:27:46 PM

数えてみれば5回しか書き込んでないんですよね。
ひがしのり~さんの投稿を見るとやっぱり雪穂は悪女だったのか、と思ってしまいます。けど状況を無視した心情としては雪穂と亮司は愛し合っていたんだ、と思いたい。そう思っている時点で「読者を騙す」という作者:東野さんの仕組んだ通りになってしまっているのかもしれません。

はっきりした結論が与えられず、考える余地が残されるのが白夜行のいい所です。尻切れで終わったエヴァンゲリオンの結末をみんなが議論したのに似てるかな。