「Microsoftがフルリモートになった影響」の件について調べた

これが話題になったので原文を読んで考えました。原文はこちら。

The effects of remote work on collaboration among information workers | Nature Human Behaviour

この調査は2020年2月~6月のデータしか元にしていないので、今は改善されている可能性がある

2020年6月と言えばCOVID-19の出始めで、とにかくリモート、という状況。人とのつながりが薄くなるなんて課題意識はなかった。今となってはこの問題は広く認知され、対策が取られているため、2021年9月現在は改善されている可能性がある。ただし、あまり改善されておらず、2021年9月現在はより悪化している可能性もある。とにかく、直近のデータも欲しい。

Microsoft社はこの問題を認識し、Microsoft Vivaのような製品を出している

Microsoft Viva: 新たなデジタル時代においてあらゆる従業員を支援 – News Center Japan

ブコメでは「MSダメじゃん」とあるが、当然MSはリモートワークにおいて先に進んでおり、リモートワークでも人とのつながりが保てるような製品を企画している。よってMSがMicrosoft Vivaを社内展開した後に、人とのつながりがどうなったかをもう一度リサーチして論文書いてほしい。

リモートワーク化における対策サービス

またコロナ後に相次いで目立ってきたバーチャルオフィス製品(oViceなど)を利用することで、問題が解決する可能性もある。あるいは、リモートワークのタイミングでSlackやTeamsなどのビジネスチャットを導入し、その中で雑談的な場を作って人とのつながりが回復した会社もあるかもしれない。

よってこの論文だけで「やっぱリモートダメじゃん」となるのは周回遅れ

とはいえ、リモートにはこの論文のような課題があることは認識し、対策を打つ必要がある。

「うちの会社はリモートでも大丈夫」な反応について

仮説1. 少人数であれば大丈夫

論文を読むとこう書いてあります。

Previous research has shown that network topology, including the strength of ties, has an important role in the success of both individuals and organizations. For individuals, it is beneficial to have access to new, non-redundant information through connections to different parts of an organization’s formal organizational chart and through connections to different parts of an organization’s informal communication network

これまでの研究では、弱いつながり、強いつながりを含む人的ネットワークのつながりによって、個人にとっても仕事がうまくいくし、それが組織の成功にもつながる。個人にとっては、組織の正式な組織図による繋がりや、そうではない非公式のつながりを通じて、必要不可欠な新しい情報にアクセ スできることが有益である

Two people connected by a strong tie can often transfer information more easily (as they are more likely to share a common perspective), to trust one another, to cooperate with one another, and to expend effort to ensure that recently transferred knowledge is well understood and can be utilized.

強い繋がりで結ばれた二人の人間は、(共通の視点を持つ可能性が高いため)より簡単に情報を伝達することができ、互いに信頼し、協力し合い、最近伝達された知識がよく理解され、活用されるように努力することが多い。

weak ties require less time and energy to maintain and are more likely to provide access to new, non-redundant information.

弱い繋がりは、維持するために必要な時間とエネルギーが少なく、新しい、非冗長な情報へのアクセスを提供する可能性が高い。

ここで言う「強い繋がり」というのは、同じプロジェクトメンバーとか同じチームのエンジニアとか、そういった関係だと思います。一方「弱い繋がり」は昔のプロジェクトメンバーとか、昔仕事で絡んだ人とかになるのでしょう。

「強いつながり」が今一緒にプロジェクトしてる人だとすると、大企業でも小企業でもその人数は変わらなさそう。ただ「過去のつながり = 弱いつながり」は組織が大きければ大きいほど広くて複雑、それが企業の競争力の源泉だと論文では語っています。

ということで「うちの会社はリモートでも大丈夫」 = 強いつながりばかりで、弱いつながりが少ない環境である、と言えるかもしれません。例えば、1つのSaaS製品をずっと開発している少数精鋭の会社、など。

※ これ、自分で書いてて思ったけど、弱いつながりを維持するためにfacebookとかlinkedinにたまに顔を出すのは大事なのかもしれないですね…。

仮説2. 「扱う情報」次第では大丈夫

On the theoretical front, media richness theory posits that richer communication channels, such as in-person interaction, are best suited to communicating complex information and ideas. Moreover, media synchronicity theory proposes that asynchronous communication channels (such as email) are better suited for conveying information and synchronous channels (such as video calls) are better suited for converging on the meaning of information.

  • 複雑な情報やアイデアを伝達するには,対面での対話などのリッチなコミュニケーションチャネルが適している
  • 情報の伝達には電子メールなどの非同期的なコミュニケーションチャネルが適している
  • 情報の意味を収束させるにはビデオ通話などの同期的なチャネルが適している

in-person and phone/video communication are more strongly associated with positive team performance than email and instant message (IM) communication.

電子メールやインスタントメッセージ (IM) によるコミュニケーションよりも、対面や電話/ビデオによるコミュニケーションのほうが、チームのパフォーマンスの向上と強く関連することが示されている 。

ということで、情報の伝達が中心の仕事であれば、非同期的なコミュニケーションチャネルが適していると言えそうです。

そういえば、コロナ前でもフルリモートをウリにしてるソニックガーデンさんのような会社さんもありましたが、調べたところ社員数40人で受託開発しつつ自社サービス開発、であれば、メンバーの目線も揃いそうで無理なくリモートワークできるのかもしれません…?

働き方への取り組み – SonicGarden 株式会社ソニックガーデン

論文が示唆するアイディア

さて、ここまで来ると「リモートしつつ、リモートじゃない時レベルの"人的ネットワーク"を保つにはどうすりゃいいの?」という話になります。その答えは論文には載ってないですが、1つのアイディアとして以下のように書かれています。

for example, firms might consider implementations of hybrid work in which certain teams come into the office on certain days, or in which most or all workers come into the office on some days and work remotely otherwise. Firms might also consider arrangements in which only certain types of workers (for example, individual contributors) are able to work remotely.

例えば、特定のチームが特定の日にオフィスに出社したり、ほとんどの社員または全員が特定の日にオフィスに出社し、それ以外はリモートで仕事をするようなハイブリッドワークの実施を検討することができる。また、特定のタイプの労働者(たとえば、個人の貢献者)だけがリモートで働くことができるような取り決めも考えられる。

うん、出社日を決めるというのは割とよく聞くアイディアですね。やっぱり人とのつながりを保つにはリアルが一番なのか…?

今は

  • 大人数(1,000人以上の規模)
  • ITサービス開発以外の業種

でのリモート成功例が知りたいところです。