あなたの知らない世界

たまに僕は、学生時代に所属したサークルの掲示板を見に行くのですが、そこになんとも興味深い書き込みがあったので全文転載してみます。
(注:この文章を書いた人は純朴で真面目な学生です)

人には言えないような恐怖体験をしてきました。
しかし、このことを自分の中だけに留めておくのはあまりにむごいのでここで言わせてもらいます。

先日、僕は卒業論文に使えそうな良い本はないかと思い、紀伊国屋新宿本店までわざわざ足を運びました。話には聞いていたけれど、紀伊国屋という本屋は本屋とは思えないくらい大きくて驚き、ここでならきっとすぐに参考になりそうな本が見つかるだろうと安心していました。しかし、いざ本を探してみると確かにいっぱいあるのだがその中からはどうしても自分が期待していたような本は見つかりませんでした。
しかたなく僕は買わないよりはましかと思えた本を1冊手に取りお店を後にしました。
せっかくわざわざ新宿まで来たのにこの本1冊で帰るのはさむいな~と思った僕は、ふと目の前にあったマルイの中へと入っていきました。そしてこれがこの後あんなに恐ろしい目にあうなんて・・・

店に入るとやはりマルイ(というか、ああいうデパートみたいなものはだいたいそうだが)1階はレディースばかりだった。まあいいや、そのうちメンズの階があるだろ、と勝手に思い込み、店内の案内なども見ずにどんどん上の階に上がっていった。
4階まで上がってきたところでちょっとした違和感を覚えた。何かが違う。なんだこれは!?ビルのつくりが違う?いや、そんな基礎的なことはおいといて、もっと何か今までに感じたことのない大きな違いがあるはずだ!!いまだエスカレーターを上がりながら考えていてやっと気が付いたことが一つあった。圧倒的に男が少なかったのだ。確認はしていないがあのマルイは間違いなくレディース専門のビルだった。しかし、俺を本当の恐怖に陥れたのはそんな生易しいことなんかではなかった。

異変に気付いた俺は既に5階に到着した。なんでレディース専門のとこなんかに入っちまったんだ、とっとと出るべ。そう思った。しかし、そのフロアにはとても降りようとは思えなかった。めんどいけど6階まで上がってそれから下におりるか、と。そう思わざるを得ない理由がそこにはあった。俺はそのままエスカレーターを上がり6階に着いた。何だよここもかよ、仕方ないな、もう1階上がるか、と、そう思った。7階に着いた。何なんだよこの店(マルイ)は!!俺は最後の願いを込めて8階に上がった。8階が最後だった。俺はここでかつて味わったことの無い恐怖にさらされることになった。

8階に上がった俺は「なんてこった!」と思った。そのフロアにも俺が下の階で見てきたものと同じ世界が広がっていた。
下から、派手な赤の厚底革靴、白黒ボーダーの膝上まであろうかというハイソックス、真っ黒でうっすいふわふわのレースのスカート、真っ白でフリフリの襟のついたブラウス、まるで小学生がやったのかと思うほどの気味の悪い厚化粧、クルンクルンに巻いた真っ黒の髪に少女漫画のような真っ赤なリボン。はたまた、シンデレラのような白い靴に白くて派手なドレス、地毛かかつらとも分からぬ金髪、そしてその髪の流れ様。今思い出しても鳥肌が立つ、そう5階から8階まで俺が通り過ぎてきたのは全てゴスロリ専門のフロアだった!!そして俺の願いは通じずエスカレーターは行き場をなくしてしまった。

今すぐに、一刻も早くここからいなくなろう!そう思った俺は急ぎ足でエスカレーターの反対側へと向かった。しかし、そこにそれは存在しなかった。俺は焦った。完全に取り残されたと。あの時、5階に着いた時にすぐに降りればよかったんだとどれほど後悔しただろうか。降りる術を見失った俺はしばらく呆然としてしまった。いやしかし、落ち着いて考えれば絶対どこかに階段かエレベーターがあるだろうことに気付いた。探した!必死になって探した!どれだけ場違いな視線を向けられてもかまわない、とにかく探すことに集中した。そしてついに俺は安心できる箱を見つけることに成功した。しかもそこには俺と同様完全に間違えて足を踏み入れてしまったであろう一般的な女の人が一人待っていた。

エレベーターという箱に入りついに俺は脱出できる!そう思っていた。しかしその油断は一瞬にして仇となった。なんと箱は7階、6階、5階と見事にヒットしていったのである。その階から乗ってくる人間といったら、そう、言わなくても分かるだろう。最上階から乗っていた俺はみるみる押しつぶされた。俺は自分でも気付かないうちに息を止めていた。そして次に気付いた時には箱の中には取り残された男が一人だけ死んだような顔をして立っていた。

二度とあの店には近づけない。。。

いやーなんというかご愁傷様。

ってことで。